国際アートフェア「LINEART 2010」
主  催 :I.J.V V.Z.W. INTERNATIONAAL CONGRESCENTRUM
参加画廊数:125画廊
参加国数:15カ国

 2010年11月29日午後7時過ぎ、成田空港よりコペンハーゲン経由にてベルギー・ブリュッセル空港に到着。列車にてゲント・セントピータース駅へ。車中より大雪の降る極寒の景色を眺める。30日、現地仕様のプリペイド携帯電話への加金や、備品の買出し、現地輸送業者、スタッフと打合せる。12月1日正午より会場への作品搬入、照明の不具合を調整、午後10時過ぎまで作品展示作業。2日、午前11時より展示作業、午後3時前に完了。ヴェルニサージュ(一般公開前の内覧会)前のプレス、審査委員向けプレビューが始まる。

 今年はLineart内に昨年より設けられたコンテンポラリーエリア「The border」に出展申請をするようLineartディレクター:Ward Caes氏より春頃に打診があり、9月の選考審査の結果、「The border」出展15画廊の中に選ばれた。我々のブースは、メインエントランス(正面入口)入って左側の黒大幕に仕切られたこのエリアの前から2つ目の好位置に在った。

 午後7時からのヴェルニサージュが始まる直前、物々しい一団と前述のディレクターが我々のブースに訪れ、「今年の審査委員の方々です。皆さん著名なコレクターです。」とその一団の方々をそれぞれ紹介される。そして、その一団のお一人より「おめでとう。北井画廊は今年のLineart全参加画廊(125画廊)の中からGallery Award(画廊賞)のノミネート5画廊(優秀画廊賞)に選ばれました。グランプリ(最優秀画廊賞)の発表は4日の会場での授賞式で発表しますので、出席して下さい。素晴らしいブースです。」と伝えられる。「来場者にわかるように、まずはブースのどこか目立つところに貼って下さい」と「Lineart 2010 Gallery Award」と書いたステッカーを渡される。ビデオカメラで終始撮られていた。

 午後7時よりヴェルニサージが始まる。この時期としては異常気象の大雪で極寒、急な路面の凍結等で都市機能がマヒする中、例年よりは少なかったものの、多くの来場者が待ってましたとばかりに訪れ、会場はヒートアップした。その中には毎年弊廊から作品を購入される図書館職員のコレクターもおり、「ブリュッセルから何とか来た。」と再会を喜び合い、2作家の作品を1点ずつ購入された。2点目成約時には現金が足りず知人よりお金を借りてまでお買上げ下さり、満足げに「また来年ね!」と会場を後にした。終わらない人々とのいろいろな好感触、好評を得つつ午後11時にこの日は終了。

 3日、午前11時、一般公開の会期初日がスタート。オープン前には入口前に人集りが出来ていた。出展画廊でも外出したくなくなるような悪天候でも来てくれる真のArt Lover(美術愛好家)達に感動。作品数点頒布。

 4日、同じく「The border」エリア出展のゲントのGallery Linkオーナーがふらっと来て「気に入ったから」と作品購入。その他、前日同様。午後7時に終了後、会場のレクチャーラウンジにて出展者や関係者のみの式典が始まる。今年、我々の隣にブースを構える昨年のグランプリ画廊、アントワープのGallery Zuidのオーナー:ステファン氏とその取扱い作家XAVIER VISA氏と雑談中、ディレクターが来て「そろそろだから前の方に行って下さい」と促される。式典はほぼオランダ語とフランス語で進行しており、英語しか理解できない小生は何を話しているのか解らないところが多々あったが、上手く編集されたノミネート画廊紹介の動画映像が大きなスクリーンに投影され、最期に名前を呼ばれたことは解り壇上へ、「Lineart 2010 Gallery Award」の盾を授与される。しばらくしてグランプリの発表のような雰囲気となり、プレゼンターの話す中に「トキョウ・・・」と聞こえて一瞬「まさか」と思うも、結局はオランダのFreemen Galleryと発表されホッとする。そのオーナーは賞金1000ユーロの小切手を手にした。その他、B-new Gallery Award(新しい画廊賞)、The Young Ones Award(若手作家賞)も発表され、この日我々から作品を購入した前述のGallery Linkの作家が若手作家賞を受賞し、賞金3000ユーロの小切手が手渡されていた。

 5〜7日、来場者は少ないながらも、いろいろなドラマがあった。昨年の結果報告でも述べたコレクターが、今回、2003年から出展しているある書家の作品を購入した。彼は弊廊ブースで今年は気に入った作品が見当たらず、ウロウロとしていた。小生のところに来て、「日本に行ってみたい」等と雑談していたら急に目の前に展示されていたその作品を「買う」と告げた。「まだ価格を伝えていませんが・・・」との小生の声に頷き、「でも買うから」ともう一度告げたのである。この書家作品はとてもクオリティが高く、独特なのだが、なぜかこれまで一度も弊廊から売れたことのない作品だった。「作品は作家が他界した後も残る。購入者が作品を選んでいるように思うのが普通だが、実は作品が購入者を選んでいるのではないか」という説が蘇る。また、一昨年に作品2点購入のコレクターが来て、「今年は出費が多く何も買えない」と前置き後、長時間あれこれと見て回り、最後にある作家作品を示して「この作家の作品を来年も必ず持って来て!」と指名した。彼女が来年本当にこの作家作品を購入するかどうかは不明だが、今年、自身の持つアパートメントホテルに我々を安く泊めてくれ、雪の中、前触れもなく駅まで車で迎えにきてくれた心温かいコレクターである。

 会期終了間際、ディレクターが今後は年配の男性4人と訪れ、「Lineartのオーナー法人の社長をはじめ重役の方々です。」と紹介した。参加11年、このフェアのオーナーと逢うのは初めてで、「日本の石川県の金沢市とゲント市は姉妹都市です。来年は何か日本にフォーカスした企画を考えてみては」と挨拶された。 

 今回の我々に対する評価は、もちろん我々の全出展作品に対する評価であり、とても名誉なことと真摯に受け止めている。今年の作品群は過去11回の参加の中で最も好かったことがある意味、証明された。このLineartというベルギー・ゲントのアートフェアは、ヨーロッパの最高峰のフェアとは言えないが、2007年に就任したディレクター:Ward Caes氏によって、バランス感覚の好い、国境を超えた公明正大なフェアへと生まれ変わったことは2000年より毎年参加して中から見て来た弊廊には充分理解できる。前述の画廊オーナー:ステファン氏も「彼がLineartを救った!」と発言している。ただ今回は悪天候の為,このフェアのオフィシャルホームページ(http://www.lineart.be/)でも発表されている通り、来場者が減り、多くの参加画廊達も「何処にもぶつけることが出来ない不満」を残す年となった。弊廊も6作家7作品の頒布となり、売上は前年より減少した。ただ継続して購入下さる複数のコレクターや、今年新しく購入したコレクターや画廊等、また一歩全身したことは間違いない。